記憶喪失 北アルプス1日目〜唐松岳〜
山岳会では、北アルプス唐松岳への遠征が3週間前から計画されていた。
9月に入った最初の日曜日に出発し、一泊二日もしくは二泊三日で行く平日絡みの遠征なので、今回もブチョウは参加できない。
唐松岳は、後立山連峰のほぼ中央に位置する標高2610mの山。
ゴンドラとリフトを乗り継ぎ1830mまで上がれば、標高差800mちょっとで山頂までたどり着けるという、夏休みには小中学生が遠足で登るほど安全な山である。
この標高差であれば、日々運動不足でどこでもヒーコラ状態のシュニンでも問題ないだろう。
山頂からは剱岳をはじめ立山や鹿島槍ヶ岳、五竜岳などの北アルプスの絶景が広がっているのはもちろん、朝夕にヘッドランプを点けて山頂まで行けば、素晴らしい夕焼けと朝焼けが見れるので、今回は日帰りではなく、唐松岳山頂直下にある「唐松岳頂上山荘」に泊まることにした。
ところが、出発4日前に台風21号が発生。
紀伊半島から北陸に抜けるこの台風をシュニンと女子2号が過剰に心配し始めた。
9月2〜3日の山行であれば台風はまだ太平洋上にいて心配いらないのに、「延期した方がいいのでわぁ〜」などと言っている。
そして決行日前日の朝、「9/2-3で登山、現地で打ち上げして9/4帰り。」という連絡を隊員達に送ったものの、"台風心配組"の2人は延期の頭ができあがっているようだ。
これは唐松岳の天気予報がイマイチよろしくないからなのかなぁ?と思い、天気予報が "まぁまぁに見える" 別の山を提案してみても、「どこも台風が来るのは一緒でしょ?!」と取り付く島がない。
そして前日の14時半、隊員に連絡を送った。
「では、山岳会としては中止にしましょう。私は夏休み取ってないし、家にいても暇なので偵察がてら行ってみようかな…と思っております。」
私は、行く気満々である。
すると、それまで沈黙を守っていた女子1号が間髪入れずに反応した。
「せっかく有給取ったので、私もご一緒していいですか?」
私と女子1号の2人だけだと、一見 "夫婦の山歩きですか?" みたいに見えちゃうけど、人の目を気にしても仕方ないし、泊まりは山小屋なので"良し"とする。
当日は、2日前に納車された「ミア号」で3時半に女子1号をピックアップし、予定通り8時に八方尾根ゴンドラリフトアダム八方駅に到着。
ゴンドラとリフトを乗り継いで、第1ケルンのある八方池山荘まで上がった。
予想通り向かう先は、ガスの中である。
第2ケルンに到着。
先には八方ケルンが見える。
八方池山荘から八方池までは約2.5キロ、標高2,060mにある八方池が見えた。
残念ながら周囲は真っ白で、晴れて入れば見えるだろう白馬三山(白馬岳、杓子岳、白馬鑓ヶ岳)は全く見えない。
⇨絶景の八方池トレッキング(外部リンク)
八方池を過ぎると下ノ樺(しものかんば)の森に入る。
見事なダケカンバの間を縫うように登山道が続いている。
思ったよりも下山する人が少なく、少しガスが立ち込めているせいなのか、静まり返った道から聞こえるのは我々の足音だけだ。
トリカブトとミヤマシシウド。
扇雪渓(おおぎせっけい)の近くで座りやすい岩を見つけ、昼飯にした後は、ガスが立ち込め不思議な雰囲気の上ノ樺(かみのかんば)を行く。
この辺りのダケカンバは、冬になると全て雪の下になる。
木々の葉に当たる雨音で、少し雨がパラついてきた事がわかったが、レインジャケットを着るほどではない。
八方尾根の特徴である蛇紋岩(じゃもんがん)は、雨に濡れると滑りやすくなるので注意しながら歩く。
晴れていたら、どんな景色が広がっているんだろう?
明日に期待するしかない。
唐松岳頂上山荘までもうひと息。
唐松岳頂上山荘は八方尾根最上部の向こう側にあり、少し登る尾根ルートと迂回ルートがあるが、迂回ルートは現在整備中で通行止になっている。
しかし、たとえ通れるようになっても尾根ルートがいいと思う。
⇨唐松岳頂上山荘への八方尾根ルートについて(外部リンク)
14時に唐松岳頂上山荘に到着。
女子1号から生ビールをゴチになる。めちゃくちゃ美味い!!
そして、唐松岳はガスの中。
15時、食堂の中の自炊者用テーブルでお疲れ様会を開始。
ボイルしたソーセージをつまみながらワインをチビチビやる。
下山後に今回参加しなかったシュニンを呼び出して、温泉宿打ち上げをやろうか?…などと楽しいアイデアを思いつきながら、メールのやり取りをしていた17時半頃、私の身にアクシデントが起こった。
寝場所に指定されていた、山荘2階の2段ベッドから転落して頭を強打し、4時間の間、ここ数日間の記憶が無くなっていたらしい(聞いた話)。
今日が何日で、ここがどこで、どうやって来たのかも思いだせず、大いに女子1号と自宅待機組の2人を心配させた。
21時半に記憶が戻った時は、山荘支配人の中川さんと女子1号が心配そうに私を見ていた。
その時に2段ベッドから転落した事を聞いたものの、事故前後の事は何一つ思い出せない。
山岳救助隊にも連絡が取られていて、もし私の容態が思わしくないようならヘリコプターを飛ばす段取りになっているらしい。
幸いにも、大きな怪我や吐き気も無く、後頭部二箇所にたんこぶと擦り傷があるくらいで、少し痛む肩も打撲程度で骨に異常はなさそうだ。
中川さんと女子1号からいろいろな話を聞くものの、この状況に頭が混乱しているのがわかる。
まるで夢を見ているようだ。
とりあえず今日は何もできないので、このまま休み、明日の朝起きたら、体の具合を中川さんに報告する事にした。
(2日目につづく)