伝えること -新谷暁夫 北の山河抄-

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今年の10月31に初版が発行された新谷暁夫(しんやあきお)さんの「北の山河抄」を読み終わった。

新谷さんの本を読んだのはこれで4冊目。
この本は東京新聞が発行する月刊誌「岳山」の763号(2011年1月号)から791号(2013年5月号)に掲載された「北の山河抄」と三浦雄一郎さんのエベレスト登頂についてを別稿でまとめたもので、いつもながらその誠実な文章と大人の考え方に、爽やかな共感を覚える。

三浦さんが今年成功させた "80才でのエベレスト登頂" に新谷さんが同行し、ベースキャンプに三週間も滞在していたことは知らなかった。
三浦さんのこの偉業については、ネガティブな評価をする人も沢山いたけど、そもそも三浦さんは、みんなから "凄いね〜" って言ってもらいたくて、そんな事をしたわけじゃない。
その事については新谷さんがわかりやすく書いてくれていた。
「狭義のアルピニズムの視点から登山家がこの遠征を評価すれば、当然ながら多くの批判があると思う。しかしそれは本を見て森を見ない愚につながる。…中略…たとえ酸素を腹一杯吸ったとしても、八十歳を越えて、誰が自分の足で8848メートルの高みにまで登れるだろうか。…中略…三浦雄一郎が目指したものはアルピニズムではない。未踏の冒険だ。」


新谷さんは知床をシーカヤックで漕ぐ「知床エクスペディション」を20年以上続けている。
新谷さんは立派なシーカヤックガイドだけど、自分の事をこう言っている。
「カヤックの技術はない。そもそも私は泳げない。」

ある三浦のシーカヤックガイドは、こう言っていた。
「知床エクスペディションは信じられない。僕だったら絶対に無理。」

知床エクスペディションは、まったくカヤック経験の無い人でも参加できる。
少しは海でカヤックを漕ぐ事を知っている自分には、パドルを握った事もない人が知床エクスペディションに参加するなんて信じられない。
知らないって事は恐ろしい。
このツアーは暖かい沖縄の海を数時間だけ漕ぐレジャーカヤックツアーとは対局にある、世界一厳しいツアーになる可能性がある本物の "エクスペディション(遠征)" だからだ。
知床シーカヤックエクスペディション

トップページの写真だけ見て "あ〜行ってみたい" などと軽い気持ちで思ってはいけない。
場合によってはこんな海を漕いだり…
http://file.shiretokoexp.blog.shinobi.jp/P9190069.JPG
こんなふうに上陸しなければならない事もある。

IMG_9523.jpg73回目の知床より

動力船に乗って、黙っていれば目的地に着く観光とは違い、カヤックは自分で漕がなくてはどこに行く事もできない。
このツアーは新谷さんに命を預けるだけでなく、自分も命がけで頑張らないといけない。
新谷さんは、この責任重大なツアーを20年も続けている。
それは "知床の素晴らしい自然を見せたい" という気持ちだけではできない。
新谷さんは、僕たちに経験を積む事の大切さを伝えたいと思っている。

新谷さんは、春から秋に知床の海に出る。
そして、冬の間は毎日、日本語と英語でニセコの雪崩情報を発信している。
ニセコ雪崩情報

今日(12/14)、このサイトにアクセスしてみたら今冬の第1号が発信されたところだった。
新谷さんは頑張っている!