仲間ができた土曜日 南伊豆2日目〜入間周辺〜

夜は暖かく、ナンガの薄い寝袋でも朝までぐっすり寝ることができた。
スマホの時計は5:00を表示しているが、外はまだ暗い。
昨夜は、ゴロゴロと波に洗われる石の音がしていた。今はその音もなく静かだ。
テントを抜け出し、ストーブに火をつけた。

富戸の浜 二十六夜山だんだんと水平線が明るくなり、1時間も経つと吉田の方向にある二十六夜山の裾野に陽が当たってモルゲンロートになった。

二十六夜山というのは不思議な名前だ。
現在、誰もが知っているのに「十五夜」というのがある。
「十五夜」は、旧暦8月15日の月のことで、今年は9月15日だった。中秋の名月と言われる秋の満月の日に、豊かに育った秋の収穫を感謝する日だ。
そして「十五夜」以外にも「十三夜」や「二十三夜」「二十六夜」というものがある。
これは月待信仰と言われるもので、月を信仰の対象として仰いでいた頃の風習である。
しかし、不思議なことに「十五夜山」とか「十三夜山」「二十三夜山」という山は無い。
なぜ「二十六夜山」という山だけがあるのだろう?
実は、ここ伊豆の二十六夜山は全国的には知られておらず、有名なのは山梨県上野原市にある二つの二十六夜山である。

「二十六夜」というのは旧暦の1月と7月の26日の夜に出る細い三日月で、有明の月と呼ばれている。
この月の出を待つのが「二十六夜待」だ。
ちなみに「二十六夜」に出る月は、阿弥陀如来、観音菩薩、勢至菩薩(せいしぼさつ)の阿弥陀三尊が現われるとか、愛染明王(あいぜんみょうおう)をお祀りしたと言われているので、どっちにしてもご利益がありそうな感じがする。
次回の「二十六夜」は、旧暦の2017年1月26日、新暦では2017年2月22日だ。
この日もし天気が良かったら、この浜に来て、酒を飲みながら二十六夜待をするのも趣があるかもしれない。
でも、その日の月の出は翌日の夜2時頃。そんな時間まではきっと起きていられないか…。

富戸の浜 二十六夜山

空は刻々と変わっている。
今日もいい一日になりそうだ。

富戸の浜7時50分に出艇準備完了。
強い西風は午前中いっぱいは吹かないと思うが、ひとたび吹き始めたら厄介になる…ともっともらしい事も考えているけど、明るいうちに家に帰ればカミさんの心証がいいかもしれない…などと打算的な事も考えている。
男というものは、日々色々な事を考えているものなのである。

南伊豆南伊豆入間に戻る道中の海は、全て逆光。
こんな朝の海を行くのは嫌いじゃない。そして後ろを振り返ると、陽のあたっている二十六夜山の手前でたった今通って来た岩礁帯がまるで影絵の様に並んでいた。

南伊豆 三ツ石岬釣り人を避けながら三ツ石岬を超える。

南伊豆 入間入間と三ツ石岬の間にある名前の無い山。世の中には標高6.1メートルでも立派な名前がついている山もあれば、こんなに立派な山でも無名のものがある。でも地元の人が呼ぶ名前はきっとあるのだろう。
秋の爽やかな陽が正面から当たって綺麗だ。

IMG_9877.jpg入間に到着し、カヤックを撤収していると二人の女の子に話しかけられた。
このくらいの年の子供は質問魔なので、次から次へ矢の様に質問が飛んでくる。
「あなたの口の周りチョコレートだらけだよ。」
私の忠告は無視である…。

そうこうしていると、ピンクの服を着た子が慌てた様子で駆け寄って来た。
「あのねっ、○○ちゃんがころんでちがでてるのっ」
振り向くと、白い服の子が地面に座っている。
なぜかさっきまで手に持っていたチョコレートは完璧に無事である。
「どこ怪我しちゃった?」
「…(泣いてるだけ)」
何ヶ所か擦りむいていて、タラ〜と血も出ている。
抱っこして、裏手にある家に連れて行くと、お父さんが出て来た。
大騒ぎである。

PB050212.jpgしばらくすると二人が戻って来た。
白い子の足にはバンドエイドが貼ってある。
「もう大丈夫?」
「だいじょうぶだよっ」
そう返事をする口の周りはまだチョコレートだらけだ。
「まだ口の周りチョコレートだらけだよ。」
無視である。
「オジちゃんのくるまにのっていいっ?」
「いいよ〜」
二人で後ろの席に乗り込んでなんだかキャッキャやっている。
「あのねっ、うちのふねみにいこうよっ」
「いいよ〜」
入間港にある船の名前を一つ一つ言わされる。

二人から1時間ほど入間や入間港のレクチャーを受けていると、白い子のお兄ちゃんが駆け足でやって来た。
「おまえ、もうお昼になるぞ、いつまで遊んでるんだよっ」
「え〜っ」
「オジちゃん、あしたもくる?」
「明日は来れないなぁ〜」
「え〜〜っ」

どうやら入間に友達ができたらしい。

(あとがき:2017-11-3)
残念ながら、入間はカヌー禁止になりました。

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