北アルプスで記憶喪失 2日目〜唐松岳〜

9月3日 月曜日、朝起きると窓の外に剱岳が見えた。
昨日の記憶喪失事件もあり、自分が北アルプスの山の上にいる事が半分信じられない。
そして、やはり昨日の空白の4時間の事は何も思い出せない。
そもそも、2階の部屋に行った理由もわからないし、2段ベッドの梯子を登った事も思い出せない。
どうも、落ちた瞬間からではなく、落ちる数分か數十分前からの記憶が失われてしまったようだ。

人間の記憶というのは不思議なもので、大昔の事は覚えているのに、最近の事が思い出せないという話は良く聞く。
覚えているのは、大切な思い出だけではなく、どうでもいいくだらない事もあるので、その選別がどんな基準で行われているのかわからない。
ネットで検索してみたら「脳と記憶」というページが見つかった。
脳と記憶、記憶のされ方(外部リンク)

その中にはこう書いてある。
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大脳辺縁系は「馬の脳」とも呼ばれるが、その中にはタツノオトシゴのような形をした「海馬(かいば)」がある。記憶の司令塔と言える大切な場所で、日常的な出来事や勉強して覚えた情報は、海馬の中で一度ファイルされて整理整頓され、新しい記憶として短期保管される。その後海馬で必要なものや印象的なものと認識を得たものが、長期記憶の保存先である大脳皮質にファイルされる。しかし、海馬はとても繊細で壊れやすい精密機械の性質があるので、これが働かなくなると新しい事が覚えられなくなる。つまり、昔の事は覚えていても、新しい事はすぐに忘れてしまうのだ。酸素不足で脳がダメージを受けると、最初に海馬あたりから死滅する。また、とても強いストレスにさらされた場合にも、海馬は壊れてしまう事がある。
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このページの中の「脳とコンピュータとの違い」を読むと、脳とコンピュータは全く別物だという事がわかるが、短期記憶を保存する海馬がUSBメモリなどのフラッシュメモリだとすると、長期記憶を担当する大脳皮質はハードディスクに例えるとわかりやすい。
フラッシュメモリは、記憶媒体として永久保存はできないものの、通常の利用状況であれば記憶したデータが壊れる事はない。
しかし、I/Oしている最中にコネクタから抜いてしまうと、中のデータは壊れてしまう。
海馬の記憶は、これと同じような事が起こった時に失われるので、一度消えてしまった記憶は二度と戻らない。
なので、残念ながら私が失った4時間の記憶は永遠に戻らない。

山荘の中川さんに体調の報告をしてから、昨日の夕食用の食材で簡単な朝飯を作って食べた。

P9030039.jpgザックを山荘にデポして、昨日行けなかった唐松岳の山頂に向かう。
一見遠そうに見えるけど、たぶん20分かからずに着けるはず。
ちなみに、女性的な唐松岳の右奥に見えているのが不帰嶮(かえらずのけん)。
空が青い。

P9030059.jpgサクッと登頂。
家族連れの先客がいたが、少ししたら我々だけになった。
唐松岳の山頂を独占できるのは嬉しい。

P9030058.jpgIMG_6581.jpgP9030054.jpg360度の素晴らしいパノラマが広がっている。
上:天狗ノ頭から白馬鑓ヶ岳
中:立山連峰と剱岳
下:五竜岳
昨日の件があるので、今回は五竜岳だけには行かず、そのまま八方尾根を下ることにする。

IMG_6575.jpg山頂にいた蛇。
こんな高山にジムグリ?

P9030061.jpgP9030060.jpg唐松岳から山荘に戻り、預けていたザックを受け取った。
中川さんには、下山したら一報入れることになっている。
8時半に山荘を出発すると、五竜岳に続く牛首の切り立った南斜面が目に入った。

IMG_6589.jpgまるで雲海に向かって下りて行くような尾根道を進む。
最高に気持ちがいい。

IMG_6592.jpgちょうどいい撮影ポイントがあったので、お世話になった女子1号を先に行かせて記念写真。
この写真を今回来れなかったブチョウに送ったら、「いい写真ですね」とお褒めの言葉をいただいた。

P9030064.jpg不帰嶮。
唐松岳から白馬に続くルートは是非行ってみたい。

P9030069.jpgP9030070.jpg今回の遠征を見送り、自宅待機組となった2人に「来れば良かったのにぃ〜」と何度も呟きながら、この素晴らしい景色の中を進む。

P9030072.jpgP9030074.jpgサクサクと歩いていると、ふと前方で何かが動いているのが見えた。
鳥?ライチョウ?小さい?
何匹かいてちょこまか動いている。
上の方で鳴き声がしたので、見上げると親がこっちを見ていた。
どうも、声を出して子供達を呼んでいるようだ。
後ろから若いカップルが歩いて来たので、すかさず口で「シー」を作って合図すると、カップルの女性は両手で口を押さえながらストップした。

ウィキペディアによると、ライチョウの生息地は限られており、北アルプスでの生息数はたったの2,000羽程度らしい。
あまり移動する鳥ではないので、いつもこの辺りで見れるのかもしれない。

P9030079.jpgだいぶ標高も下がり、ガスが周りを覆うようになって来た。
この感じだと、八方池の絶景は今日も見れないかもしれない。

P9030087.jpgP9030086.jpg案の定、ガスが周りの山々を隠してしまった。
八方池もガスの中で見え隠れしている。
しかし、今日は昨日とは違って少しだけ風があるので、ガスは刻々と移動している。
そんな中、時折白馬岳が顔を見せてくれたりするのは、なかなか幻想的でいい。

11時に八方池山荘に到着。
今日は、このまま車を運転して帰るので到着ビールは飲めない。
仕方がないので、自動販売機でキンキンに冷えたファンタグレープを買って飲んでみるが、昨日の生ビールの感動には程遠い。
ここで山荘の中川さんと、長野県警大町署に電話をして、下山の報告をした。
明日は、脳神経クリニックでMRI検査を行い、その結果も報告する。

IMG_6609.jpg下りのリフトに乗ると、次から次に観光客が上がって来る。
下界は天気がいいので、上に行きたくなったのだろうが、上はガスで何も見えない。
高いリフト代を払ってるのに、なんだか可哀想。

女子1号から「運転しようか?」と言われたが、頭に違和感がなかったので自分で運転することにした。
そのかわり少しでも変だなと思ったら交代する。

栂池にある日帰り温泉で二日間の汗を流し、蕎麦屋で昼飯を食べてから帰途についた。
渋滞がないと4時間で帰って来れるので、何だかとっても白馬八方尾根が近くに感じた。
若い頃は、よくスキーで八方尾根を滑っていたが、冬以外で来るのは初めてだった。
今回はアクシデントで唐松岳までしか行くことができなかったけど、登山道もよく整備されているし、何しろ素晴らしい景色の連続で楽しい。
また行きたい。

(あとがき:2018-9-4)
MRI検査を行った。
異常なし。
ドクターに「お酒は飲んでもいいですか?」と聞いたら、「酔っ払って頭をぶつけない程度で。」と言われた。
話のわかるドクターで嬉しい。