ミニシアターの魔法

最近、ミニシアターで映画を観ることが多い。
ミニシアターでは、シネコンにあるようなポップコーンやドーナツを売っているショップなどはなく、売っているものと言えば、小さなケースに入れられたグッズや、ポットに入ったコーヒーくらい。
それでも、大きな映画館ではやらない魅力的な映画を上映してくれるので、映画好きのファンに根強く支持されている。
そんな場所なので、お客さんのマナーはすこぶるいい。
本編の上映前に流れる注意事項の説明など不要じゃない?!と思うくらいだ。
もし、僕がまだ若く、好きになった女性と初めてデートするなら、あえてこういう場所に行ってみるかもしれない。

これまでに鑑賞した作品をいくつかご紹介。

小さな診療所を舞台に展開するヒューマン・サスペンス「午後8時の訪問者」。
自分は男だけど、主人公の女性医師に同化してしまった。映画の魅力が詰まったこの作品で主役を務めたのはアデル・エネル。

ナチスの戦犯を祖父に持つ男と、ユダヤ人の祖母を持つ女が出会った物語「ブルーム・オブ・イエスタディ」。
堅物でヘンテコな男を演じるのはドイツ人のラース・アイディンガー。そしてヘンテコな女性を演じたのは、またもやアデル・エネルだった。

隠岐が舞台になった「KOKORO」。
普通のフランス人女性が全く異なる文化を持つ日本に行く…という話を撮った女性監督はベルギーのヴァンニャ・ダルカンタラ。
少し誇張された日本描写や主人公の行動が気になるけど、あらためて見る隠岐の自然は凄い。

突然最愛の人を失ってしまった主人公の思いが観る者の共感を誘う「ナチュラルウーマン」。
事前に全く情報を入れずに観たので、この女性がトランスジェンダーだとは観始めてもしばらく気がつかなかった。

ウォーターゲート事件で大統領を辞任に追い込んだFBI副長官マーク・フェルトの生き様を描いた「ザ・シークレットマン」。
原題は「Mark Felt: The Man Who Brought Down the White House」。相変わらず陳腐な邦題でガッカリするけど、「ペンタゴン・ペーパーズ(原題は「The Post」)」の後に観るといい。

ヒトラー崇拝者に家族を殺された女性を描く「女は二度決断する」。
これも事前に全く情報を入れずに観たのでラストシーンに衝撃を受けた。ドイツ人監督のファティ・アキンと主演女優のダイアン・クルーガーのタッグで、映画の最初から最後まで圧倒される。


ミニシアターの段差の無いシートに座って映画が始まると、まるで魔法にかかったように私は別の世界に連れて行かれる。
そして映画が終わると、自分が少し大人になったような気がする。
還暦を過ぎたいい大人が何言っちゃってんの?という声があっちこっちから聞こえてくるようだけど、私は「人は死ぬまで大人になりきれない子供」だと思っているので "そんな気がする" のである。