独り占めの油壺湾
ようやく春らしい日差しが降り注いだ2012年4月7日土曜日。
昨日までの風予報では海に出れないと思っていたが、朝、この日差しを見た瞬間気が変わった。
穏やかっぽい葉山には目もくれず、目指すは三戸浜。
ともかく行くだけ行って、ちょっとでもいいから油壺湾を覗ければ万々歳。

8時過ぎに浜に着いてみると、風は思ったより強く感じない。
波予報は0.8〜0.9メートル。
ところどころ、白波が砕けているけど、これは潮位がとんでもなく低いためと見た。
出艇。
相変わらず生い茂るホンダワラをかき分けながら沖に出る。
風も波も大丈夫。
あとはカヤックの底を擦らないように、いつより沖側にルートをとる。

小網代湾に入ると、風はほとんど感じなくなった。
かぜか今日は釣り人もいない。

定置網と生け簀が浮かぶ湾内もご覧のように平和そのもの。
カヤックが数艇こっちに向かって来る。
「桜はどうですか?」
「ちょぴっとだけ」

ヨットが係留されている真ん前にあるおしゃれな家。
別荘かな? 主は不在の様子。
もし自分が、こんないい所に別荘を持っていたら、毎週のようにやって来てテラスでビールを開けているだろう。


"大" 干潮の小網代の森。
森には春っぽさがこれっぽっちもなく、まるで秋の様子。
桜はゼロ。

手前の入江にはツアーの団体さんがびっしり。
参加者は、60〜70才くらいのオジサン、オバサン達だけのようで、話している内容が井戸端会議っぽい。
海の上で聞く会話としては、なんだか新鮮でユーモラス。



生け簀の一つにカヤックを横付けして、中を覗いて見るとこんな様子。
ものすごい数の稚魚が時計回りに泳いでいて、その一匹一匹がキラキラ光っている。
すごく綺麗。

生け簀の周りには、カラスやトビ、カモメ達が休憩していて、近寄ってもあまり逃げない。
いつもならササ〜っと飛んで行ってしまうけど、この辺りの鳥達は人間を見慣れているのかもしれない。

油壺湾に行くために、荒井浜の沖にある島の手前を抜けていく。
普段なら何も気にしないで漕ぎ抜けるこの場所も、今日は慎重に水深を確認しながら進んでいく。
ギリギリだ。

油壺湾の最深部に向かって行く。
ここでも森は "新緑" とはほど遠いイメージ。
ぱらぱらと釣り人が糸をたらしている。


山桜が1本。
そして、その先に待望の桜がひっそりと咲いていた。
三部咲きだろうか…。
運良く誰も来ないので、貴重な1本の桜を独り占めした。
音が消えた桜の下でしばし漂ってみる。


この辺りの岸や海中には、オレンジや黄色の得体の知れない生物がいる。
何かよくわからないけど、海綿動物の一種なのかな?
なんだか不思議な光景。


諸磯に上陸。
潮が引き過ぎていて、なんだかぜんぜん違う場所に見える。
ポカポカ陽気でそよ風が気持ちいい。
芝生にひっくりかえり、クーラーバッグで冷やしてきたビールをやる。
極楽極楽!

いつもは海中にある色とりどりの海藻と澄み渡った水。
オフシーズンの諸磯は、いつ来ても "ここは三浦なのか?!" とびっくりさせてくれる。

昼飯は荒井浜海上亭の漬け丼。
浜には、さっき小網代湾で会ったツアーの人達がカヤックを並べていた。
久しぶりに海上亭の女将さんと世間話。
「お客さんはどうですか?」
「今年に入ってからゼロなのよお。もちろん年末・年始は馴染みのお客さんが来てくれたけど、それ以外は一人もなし。」
「マスコミが定期的に地震の話しを出しますからねえ。」
城ヶ島と同じで、ここでもお客さんの足は海に向かっていないようだ。
いつ来るかわからない地震を警戒して、海に行かないなんて…
どうも、日本人の精神構造は奇妙だ。
それとも、そんなことには関係なく海で遊んでいる自分達が変わっているのだろうか?

美味しいコーヒーをご馳走になった後で、荒井浜をあとにした。
先ほどより潮位は上がったが、まだまだチョコレートケーキの様な磯場が広がる。


7メートルほどの風が吹く小網代湾を横切り、パンケーキロックに戻ってきた。
海は完全に凪ぎ、岩や空を映し出している。

さて、少し時間が早いけど三戸浜に帰ろう。
この後は風が上がってくるはずだ。

