河津塾 その2〜マタギと犬〜

マンゴーハウスでの興味深い話しが終わり、土屋さんの自宅で一時間ほど打ち合わせした。
その後、今回の河津出張をコーディネイトしてくれた梅さんも合流し、土屋さんのお言葉に甘えて、食事をご馳走になった。

食事は鹿の刺身と猪鍋がメイン。
そお!土屋さんは農業のプロであると同時に、マタギの顔も持っている。


そこで、前から気になっていた質問をしてみた。
「時々、一般ハイカーが猟師に撃たれる事故がありますが、それは立ち入り禁止の場所に入るハイカーが悪いんですか?」
「いや、それは100%猟師が悪いよ。猟師には矢先(鉄砲の先のこと)に人がいないことを確認する義務があるから。」

土屋さんはきっぱり答えた。

マタギが起こす事故は、全てマタギ自身に責任があると言う。
他人のせいにしない!これこそ本当のプロだと思った。

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食事の最中に猪の頭の骨を見せてくれた。

もちろんこの骨は土屋さんが仕留めた猪のものだけど、なぜ土屋さんがこの骨を持っているかには理由がある。
これは土屋さんのマタギ人生の中で、これまでで最高の相棒だった犬を殺した猪だからだ。

土屋さんは、その時の様子を淡々と話してくれた。
マタギ犬と獣である猪の戦いは土屋さんから見えない薮の中で行われた。その薮の中からいつもとは違う犬の声が聞こえてきた。
猪を仕留め、犬の声がした場所に行くと、犬はこの鋭い牙で頭をやられ死んでいた…。
土屋さんは、その場で犬を埋葬した。

マタギの人達は誇り高い人達だ。
自分の猟果を記念に残し誰かに自慢するような事はしない。土屋さんが、この骨を残したのは、自分の一番の相棒の事を忘れない為じゃないか…と思う。

マタギにとって、一番大切なのは銃ではなく、一緒に猟をする犬。
普段はおとなしく、森に入れば勇猛果敢に獣を追いたてる犬。そんな犬を一生の内で一匹でも持てることがマタギにとって一番幸せなことだという話しを聞いた。

すごくいい話しで、ジーンとしてしまった。

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上が鹿の刺身で、下が猪鍋。
そして、満腹で "もう食べられません" 状態になった後で鍋に投入された餅の味は生涯忘れないだろう。
最高に美味しかった。


(あとがき:2013-2-23)
「赤いペガサス」という硬派のレース漫画がある。
第3巻、ブラジルグランプリで地元の英雄エマーソン・フィッティパルディを抜き、主人公のケン・アカバが終盤でトップに立った。
ケンがコースを通りかかった際、苛立った観客がコーラのビンを投げ、運悪くそのビンがタイヤバリアにはじかれマシンに当たってしまった。
ケンのマシンはスピンしガードレールに激突してレースを終えた。
その一部始終を見ていた観客の子供がレース後ケンにこう言った。
子供「ケン!あのビンはわざと投げつけられたんじゃない!観客が放ったのが、ほんのはずみでコースに飛びこんじまったんだ!」
ケン「いいかい、たとえどんな時にマシンの前に障害物がふってわこうと、F1レーサーはそれをかわさなくちゃいけない。さかなが水中を泳ぐように、マシンをコントロールできなければならない!だからF1レーサーが他人のせいで事故を起こすことはない!すべて自分のミスさ!」

このくだりはとても印象に残っている。
マタギとF1レーサーは同じだ。

ケン・アカバのゼッケンは "31"。
僕がフォーミュラのレースを戦った2年間、ゼッケン "31" は僕のものだった。
FRD MF83J