南か北か 伊豆2日目〜宇久須から松崎〜
夜中に目が覚めると、浜に打ちつける波の音と、ゴロゴロと転がる石の音だけが聞こえる。
日の出の時間は昨日と同じなのに、ついついクセでsiriに日の出の時間を尋ねてしまう。
刻々と空が明らむ様子を見たくて、まだ早いとは思いながら5時に寝袋から出た。
テントの中で寝袋とマットをたたみファスナーを開けると、真っ暗な海を月明かりが照らしていた。
インスタントコーヒーを飲みながら夜明けを待つ。
いつの間にか辺りが明るくなり、ゴソゴソとテントを揺らしながら起きてきたハマちゃんが朝飯を作りはじめた。
「何を作るんですか？」
「にしん蕎麦です」
まるでマジシャンのように、どこからか食器と食材を取り出し、ネギを刻み始めたなぁと思ったら、ものの10分で "にしん蕎麦" を完成させていた。
私の朝食は、厚切りのハムエッグとクロワッサンそれと、コーンクリームスープ。
「今日はどっちに向かいます？ ゴール地点まで迎えに行きますよ」
「じゃぁ土肥で」
カヤックは夜露で濡れている。
シューズはフナムシが入り込まないように、洗濯バサミで口を塞いでおいた。
7時28分、2人同時に準備が完了。
ブルーグリーントルマリン色(※1)の海にカヤックを浮かべた。
※1ネットで同じ印象の色を探していたら、この宝石の色に近かったので、こんな言い方をしました。
私は出艇地へ戻るので南へ、ハマちゃんは北へ向かう。
写真ではわからないと思うけど、極上の海が続いている。
パドル一漕ぎで、数メートル進む感じがする。
今日は終日曇り予報。
安良里の近くで沖を向くと、曖昧な水平線上には一隻の船もいない。
安良里の先に浮かぶ島々の間から特徴のある烏帽子山が見えた。
伊豆は南へ行けば行くほどダイナミックな地形が現れ、そのスケール感が目を楽しませてくれると同時に冒険心がくすぐられる。
それに比べ、松崎から北の海域には南伊豆のようなダイナミックさは無いけど、私は嫌いじゃない。
毎日お肉が食べられないように、たまには魚やサラダを味わってみるのもいい。
伊豆はどこを漕いでも楽しい。
一つ松崎から南の海域で注意点があるとすれば、エスケープができない断崖絶壁の海岸線が続く地形に輪をかけて、カヤックに優しくない港が多いこと。
雲見、妻良、入間、中木、石廊崎は使えない。
⇨フォールディングカヤックの試練
宇久須から堂ヶ島まで、岩場には数えきれないほどの釣り人がいた。
釣竿の向きを見て、邪魔にならないように通過し、田子の辺りでは海蝕洞をくぐりながら帰ってきた。
松崎で撤収していると、突然スマホが鳴り大津波警報を伝えてきた。
訓練である。
久しぶりに聞くスマホの緊急速報は心臓に悪い。
土肥でハマちゃんをピックアップし、新幹線が止まる三島駅まで送った。
三島駅では送迎用の車寄せスペースが見つからず、仕方なく路上に停車して荷物を下ろした。
私は打ち上げをしに、藤枝へ向かう。
藤枝には予定通り15時に着いた。
ところが予約していた東横INNにチェックインできない。
フロントの説明によると、15時にチェックインできるのは東横INNのメンバーカードを持っている人だけで、持っていない人は16時以降だという。
東横INNを利用するのは今回が初めてで、かつ今後利用するかどうかわからないけど、その場で年会費無料のメンバーカードを作れば15時にチェックインできると言われたので作ることにした。
渡された用紙に書き始めたら「入会金は1,500円です」と言われた。
あまりにもバカバカしいので入会はやめ、ロビーで仕事のメールをチェックしながら時間を潰すことにした。
隣には、自転車ツーリングの後らしい人が同じように時間を潰している。
16時になって部屋のカードをもらいエレベーターに乗ると、自転車の人がいた。
「今時、16時チェックインなんてありえないですよね?! 昭和じゃあるまいし。」
と話しかけられた。
どうやら、同じことを思いながら待っていたらしい。
サクッとシャワーを浴び、お目当ての店に着いたのは16時20分。
まずは残り1本だった藤枝ビールをもらう。
自分に "お疲れさま〜" で乾杯。
美味し!!
料理はお任せ。
ワインはボトルで!!
以前、この店のカウンターで同席になった人が来店して、隣に座った。
どうやらお店の人が声をかけてくれたらしい。
この人は、いつもサッカーのユニフォームやジャージを着ている。
「今日はどこのですか？」
「フランスです!! それもレア物です!!」
私はサッカーのことは全くわからないので、「そうなんですね?!」としか言えない。
「飲み屋に着て行っても誰も気が付かないんですよ〜」
どうやら、わかっていないのは自分だけじゃないらしいので安心した。
21時のラストオーダーを過ぎたところで店を出た。
この2日間はとっても暖かく、今もTシャツの上にフリースジャケットを羽織っているだけ。
風が心地いい。
さて、先日の千葉以来、車から変な音が聞こえている。
どうやら異音の原因は、ハブベアリングらしい。
明日は少し大変かも…。
